戦時教学について（三） 宇土北組 光国寺住職 源 重浩

十五年戦争では幾つか重要な分岐点があり、その都度強硬派が穏健派を押し切るかたちで、戦争の方向へ、破滅の方向へ進んで行きました。

第一の分岐点は、（昭和6年9月）満州事変勃発時です。日本の陸軍（陸軍中央）も日本政府（若槻内閣）も押さえにかかっているにもかかわらず、関東軍の参謀板垣征四郎、石原莞爾は強引に事変を引き起こしてしまった。

第二の分岐点は、（昭和8年3月）国際連盟脱退。全権大使松岡洋右はジュネーブ会議の始まる前、英国の外相サイモンから根回しの相談を受けたことが分かっています。英外相の提案は「満州の宗主国は中国に管理運営は日本に」というものでした。英国は香港のイメージで日本は満州を管理したらよいと考えていたと思われます。松岡はこれはいい案だと本国に打電しますが、外相内田康哉の対応は本土を焦土と化しても満州を日本の領土とする、というもので、松岡の再度の説得にも耳をかしませんでした。英国の案を受け入れていたら、日本は国際連盟を脱退し世界の中で孤立することもなかったでしょう。

第三の分岐点は、（昭和13年）盧溝橋事件。この時、満州事変を強行した石原莞爾でさえ中国中央部への更なる兵力の展開に反対しています。第四の分岐点は（昭和16年12月）日米開戦時です。



以上四分岐点の中で、第二の国際連盟脱退という日本の選択は、その後の悲惨な敗北に至る道筋を作ってしまったという点で、十五年戦争全体を俯瞰する時、重要な分岐点であったと考えられる。この時期の日本の政治状況について、緒方貞子は次のように云います。

｢ここで注目すべきことは、連盟脱退は、支持者と反対者との間ではげしく討論された結果採択されたような政策決定ではなかったことである。首相をはじめとする政府責任者、後に連盟脱退の立役者となった松岡洋右をはじめ、連盟の日本代表部、西園寺を中心とする宮中関係者中、日本を連盟から脱退させようと望みかつ画策したものは一人もいなかった。それにもかかわらず日本が連盟を脱退するようになったのは、彼らの日和見主義あるいは不決断、あるいは消極性が強硬論者に道を譲る結果となったからである。｣

このように緒方貞子は、強硬派に連盟脱退の路線で押し切らせてしまった「首相をはじめとする政府責任者、後に連盟脱退の立役者となった松岡洋右をはじめ、連盟の日本代表部、西園寺を中心とする宮中関係者」などの穏健派に対しても批判の眼を向けている。批判すべき時に批判しておかないと時局はますます悪化して、取り返しのつかないことになるというのが、歴史から学ぶ教訓であると考えられます。

戦時教学の反省として、私たち仏教徒（真宗者）は、政府や軍国主義者たちのデマや情報操作に振り回されずに真実（事実）を知る努力と、発言（批判）すべき時にはしっかりと対応することが大事である、と考えられます。

編集後記

○先の大戦時、多くの新聞（メディア）は大陸に進出しかけていた軍部を否定的に報じていたが、部数は落ち続け、その帰結として翼賛報道に陥ってしまったと言われている。社会の動き・民意に迎合してしまったのである。源先生には「真実を知る努力」と「発言し続ける」ことを提言していただいた。それはある時点において民意・社会との対立を意味することとなる。厳しい道であるがしっかり歩む覚語が求めらている。

○石橋さんが結成された「非戦平和を願う真宗門徒の会」とほぼ同一名称の団体が熊本にあることを今回お知らせしたら「弟分、妹分ができたと思ってお育て下さいますようお願い致します」との返信をいただいた。こちらこそどうかよろしくお願いします。という気持ちで一杯です。（藤岡崇史）

「非戦平和を願う真宗門徒の会」を立ち上げて 石橋純誓

私は広島県呉市在住の在家の真宗門徒です。私が暮らす安芸の地は、今でも安芸門徒の先達の足跡の名残りがあり、真宗の学びを深めるには、もってこいの土地柄です。昔から安芸國では、取り次ぎ寺の枠を超えてのお聴聞が盛んな習慣があり、おかげで私はどこのお寺にお参りしても仏法の先輩に導かれています。皆さんから、その安芸門徒の心意気を背負い歩んでいく事が沢山ある中の私の大きな宿題です。

私は、このように真宗的環境には大変恵まれていますが若い頃には全く真剣ではありませんでした。それが20代後半に求道のスイッチが入り約10年間、「本当に真面目に浄土真宗を心の拠りどころとして生きるとは、どういう生き様なのか？」と自問しました。求めても悩みは増すばかりで途方に暮れていた末に、やっと信楽峻麿先生の御法縁に辿りつけました。昨秋、先生が御往生されるまでの11年間、お育ていただきました。

信楽先生からは沢山のことを教わりましたが中でも安芸の教学ともいえる「行信一如」の真宗について信心は「体験で生き様なんだ」ということを繰り返して学ばせていただきました。先生は自身の戦争体験や親鸞さまを通して「社会問題と念仏者はどう対峙するのか？」ということを、時代が変わろうとも、どんなポジションにあろうとも、お念仏によって気付かせていただいたなら各自が主体的に自立した念仏者としてベストを尽くすことが大事ということを折に触れ話して下さいました。決まって最後には「その頃には、わしは、もうおらんぞ、ガラ空き門徒じゃ、つまらんぞ」とおっしゃっていました。振り返れば信楽先生の生前には申し訳ないことに本当の意味で私自身にガラ空き門徒の自覚がなかったのです。



今の日本は戦争ができる国へと加速しています。2012年冬に第二次安倍政権になった時から先生は非常に危惧されていました。私も危機感がなかったわけではありませんでしたが先生のシグナルを受け止めるのは2015年6月となってしまいました。気が付いたら特定秘密保護法、ＴＰＰ、原発問題と次から次へと反対多数の民意を無視して数の力で強引なやり方で押し進めています。

そして何よりも仏教徒として、どうしても許すことのできないのが同盟国が行う戦争への応援法案というべき安保法制を強行採決したことです。このまま、念仏者として何もせず黙認したら仏さまや親鸞さまにも申し訳ないと思いました。

そこで、すぐやれることとして7月4日広島別院での御門主の御親教の確認をした上で全国の私の有縁の法友と僧侶に協力していただき約600人の門徒有志で安倍政権に対しては抗議文を、本願寺派の御門主と総長に対しては安保法制に反対の声明を出すという要望書を送りました。

その後、8月10日付けで総長談話が出ましたが他人事のような文章で「多くの国民が納得できるよう、十分な説明と丁寧な審議が尽くされることを願っております」とありましたが、この部分はまるで安倍さんみたいではありませんか。明確な反対表明ではないだけでなく70年前と同じように世間の流れに従い戦争協力へ加担してしまうのを見過ごすということではないですか。「平和に関する論点整理を中間報告として公表する予定」とありますが、そんな悠長なことをやっている場合ですか。戦後の70年間、教団は何をしていたのでしょうか？

納得できないので再度の要望書と抗議文を出すことになりました。この問題は長期になることが予想されるので毎回、賛同人を募る労を皆様にお願いするのは、とても心苦しいし、何よりも非戦70年間で私達、門徒は僧侶任せで門徒自ら一丸となり声を上げたり行動を起こすことがありませんでした。私達門徒もいつの間にか受け身ばかりで寺壇制度にどっぷり浸かり本当の意味で自分事としての真宗念仏者とは程遠かったのではないでしょうか。そこに気づいたなら厳しい今だからこそ、思いのある門徒同士がバラバラではなく繋がって活動ができたらいいなと思ったのです。私もそうですが現状に危機感を持つ門徒は各地で時には孤独を感じたり何かしたくても一人では方法さえ浮かびません。仲間、それも法友が共に居てくれるとわかるだけでも違います。七月末に私が呼びかけ人となって二度目のアクションと並行して真宗門徒なら十派の枠を超えて誰でも入会できる「非戦平和を願う真宗門徒の会」を結成しました。