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憲法前文と9条  川田晃映 [2006年7月1日号(第84号)]

 私は「非戦・平和を願う真宗者の会」の一員として、毎月20日の下通での辻立ちと会報配布に努めている。20日とはイラク戦争が始まった3月20日に合わせてのことである。

 まずは6月2日に産文会館で行われた、イラク戦争のドキュメンタリー映画『リトルバーズ』上映と綿井健陽監督の講演会から話を始めたい。戦争に巻き込まれ、家族を亡くしたり、重傷を負ったイラク市民の悲しみが映し出され、それが今も続いていることを強く再認識させられた。イラクボディカウント(インターネットサイト)によると一般市民だけで少なくとも38000人以上が殺されたという。そしてイラクを攻撃した米軍のヘリや戦闘機が沖縄の基地から出撃したことを知らされ、どんなに私個人が戦争に反対していても、イラク市民から見れば、「戦争の協力をしている日本」の国民にみられるのだというとても悲痛な思いにかられた。

 加えて、5月1日の日米安保協議委員会(2+2)では国民を置き去りにして「日米同盟は新たな段階に入った」と宣言し、沖縄の基地負担(現在沖縄島の全面積の20%が米軍基地)の削減を表に出しながらも実は自衛隊の米軍一体化を計画していた。日本を「守ってもらう国」から「共に戦争を仕掛ける国」に変えようというのだろうか。

 その差し迫った実情の下、憲法改正が政治家から声高に唱えられる。実は日米の軍事一体化の邪魔になるのが、憲法九条の存在だからである。憲法九条について触れる前に、現憲法と昨年十月末に自民党が出した新憲法草案の決定的違いに触れてみたい。

 現憲法における憲法遵守義務は、公職者~いわゆるお役人~にあり、国民とは記されていない。それは憲法九十九条に「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と明記されている。つまり現憲法は主権者である国民が「お役人」に守らせるものなのである。「お役人」が法律を作り国民を縛る(統治する)のに対して、国民が憲法で「お役人」が暴走しないように歯止めを掛けること、そして国民の人権を守るために国民側から「お役人」に要求することが特徴である。 それに対して、草案では、九十九条はそのままだが、それ以外で「国家の暴走に歯止めを掛ける」という現憲法の理念を否定し、逆に国民に服従を強いる法律のような条項が目立たないように盛り込まれている。例えば、第十二条国民の自由及び権利について、草案では「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と変えている。現憲法の特徴と逆である。

 さて、国民が公職者に遵守するよう要求するものが現憲法であるとして、前文と九条を見てみる。するとそこにははっきりと「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」とあり、その実現のために「戦争の放棄」である第九条が決められている。国民が政府に対し戦争をしないように要求しているのだ。

 前文の文言と九条は日本が再び歯向かわないようにGHQから押しつけられた一面もあっただろう。しかし同時に長期にわたる戦争で疲弊し、戦争の残虐さ・悲惨さを被害者として味わった日本国民に歓迎されたことも事実だ。そして日本から加害されたアジアの人々からも「戦争への反省」として受けとめられてきた。そして九条の存在が歯止めとなり、自衛隊の軍隊としての活動を抑え、結果この60年他国民を傷付けずに済んできたとも言える。改めて現憲法を評価したい。(映画日本国憲法を参考)

 しかしこの度の草案では前文の前掲の部分「政府の行為によって・・・」を削除し、九条の前に記された「戦争の放棄」を「安全保障」に言い換え、一項は残しつつも二項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」の部分を自衛軍の活動に大幅に書き換えている。私には日本という列車の進路を「戦争の放棄」から「戦争是認」いや「戦争行使」へポイント切り替えするように思える。「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」(前文)ことを武力で壊してはならない。「宗祖の教えに背き、仏法の名において戦争に協力していった過去の事実を、仏祖の御前に慚愧せずにおれ」(終戦五十周年全戦没者総追悼法要ご親教)ない我々には看過できない憂慮すべき問題である。声を挙げる必要がある。

 非戦・平和を願う延長線上に憲法九条を守ることがあると私は考える。各地で「九条の会」(憲法九条を守る会)が結成されているが、宗教者であると共に一市民として参加し、「私」の平和を守る視点を持って考えて頂きたいと思う。(益西組正善寺衆徒)

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