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伝道教団24時<布教の最前線では…>  託麻組・良覚寺住職 吉村隆真 [2002年10月1日号(第69号)]

 私は現在、本願寺布教研究職務従事者(通称:布教専従職)というお役目を頂き、本願寺を訪れる様々な参拝者(念仏奉仕団・帰敬式・書院拝観・各種団体参拝・修学旅行生などなど)に対して、日々布教を行っています。専従職を拝命して約半年、そのような日常の中で、これまで自分が布教使としていかに楽なところで話をさせて頂いて来たかということをいつも思わせられます。会所から依頼を受けて、話を聞く態勢の整った方々ばかりが集まった、予めお膳立てされたところへと出講し、法座を勤め終えて、御法礼を頂いて帰るということは、布教使でなくとも誰にでもできることです。

 ところが、現在私が布教をしている現場は、寺院でのお同行に対しての一般的な法座とは違って、今まで法話というものを一度も「聞いたことがない」、更には「聞く気すらない」という方が当然のようにいらっしゃるところなのです。そのような方々の興味を惹きつけ、わかり易く、しかも間違いなくお伝えするという布教の研究・実践はなかなか容易なことではありません。

 先日も東京都新宿区の公立中学校の学生に対してお話しさせて頂きました。彼らに私の法話が通用するのかどうか不安もありましたが、それは取り越し苦労に終わりました。彼らはこちらの予想以上に反応を示し、実に熱心に聞き入ってくれました。中高生が法話など聞くはずがないというのは、大人の勝手な偏見と決めつけと思い込みなのです。「亀毛」「兎角」の最たるものでしょう。「事前のリサーチ」と「ニーズの把握」と「内容の工夫」さえできれば、中高生に対する布教も決して不可能ではないということが証明されました。

 しかし、この点がこれまで布教使に欠けていた三大要素であるように思います。例えば念仏奉仕団を例に挙げてみましょう。

 念仏奉仕団の参加者は、午後7時からの総会所布教(常例布教使による夜の法座)を任意で聴聞なさいます。翌日に私の法話が控えているため、前日はリサーチを兼ねて必ず聴聞するようにしています。「対象がどのような方々なのか?」「どのような内容や話題に敏感な反応を見せるのか?」などの対象の傾向を知ることは、話を構成する上で欠かすことができないからです。しかし、残念なことに反応を見る限りにおいて、総会所布教の内容は、その大半が専門用語の羅列や時代錯誤の因縁話といった類いのもので、聞き手のニーズに全くと言っていいほど合わず、大きく掛け離れたものになってしまっているという悲しい現実があります。これまで常例布教使が勤めていた念仏奉仕団対象の法話が、私たち布教専従職の手に委ねられたのも、その辺りの理由からでしょう。

 これまで多くの方にお話しさせて頂きましたが、修学旅行生や念仏奉仕団をはじめ、法話に遇ってお帰りになる参拝者のにこやかな表情が、こちらが意図することが良い結果として表れている何よりの証拠だと受けとめています。

 浄土真宗本願寺派は伝道教団です。私たちの教団が「全員聞法・全員伝道」の看板を高々と掲げている以上、私たちは如何なる訪問者に対しても法を説く覚悟で臨まなければなりません。その最前線こそが布教使のあるべき場所なのだと思っています。浄土真宗教義の中核は阿弥陀如来による救済にあります。しかし、阿弥陀如来の救済の絶対性を強調する中で、「おまかせ」を履き違えて、布教使の本分を棚上げにしてはいなかったでしょうか?尊前で正座をし、合掌・礼拝を繰り返しながら心ではあぐらをかいて、尊きみ教えを自ら貶めてきたのかもしれません。 布教使は如来様の「使い」であると言います。私たちの如来様は「もののにぐるをおはへとる」如来様です。おこがましくもその如来様の使いであるというのなら、予めお膳立てされたところでの布教だけに留まるのではなく、今まで法話というものを一度も「聞いたことがない」、更には「聞く気すらない」という人々に対して布教してこそ「使い」なのではないでしょうか?今まさに布教使の在り方が問われています。「布教とはこういうものだ!」と高を括って、従来のような受動的・消極的な布教形態で終始するのではなく、こちらから一歩前へ出て聞法者を拓いていくような能動的・積極的布教を研究・実践する一歩先の布教使が求められています。現代に布教使を名乗る以上、これからも私はその苦労を厭いません。

いのちの食べかた

いのちの食べかた

  • 作者: 森 達也
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 単行本


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