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危機の中の真宗<蓮如上人500回忌を終えて> 小山一行 [1999年1月1日(54号)]

 昨年、東京池袋の東武美術館で、NHKの主催による「ブッダ展」が開催された。たまたま東京の寺院に布教に来ていて、これを参観する機会を得たのであるが、会場を回りながら私は考え込んでしまった。

 館内は大入り満員、まさに押し合いへし合いの大盛況である。しかも、カップルの若者たちから中高年の紳士まで、文字通り老若男女を問わず熱心で、カタログを手に食い入るように展示物を見つめている。中には仏教の歴史やブッダの足跡について、声高に解説している人もあるくらいだ。この関心の高さはいったい何だろう。

 確かに、展示されているのは世界各国の美術館、博物館からかき集めた名品ぞろいではある。また、これより先、テレビで放映された「ブッダ―大いなる旅路―」というシリーズと、タイアップしていたからでもあろう。だが、私を最も苛立たせたのは、このように仏教に対して少なからぬ関心を抱いているはずの多くの人が、まずほとんどお寺に参ることはないだろうという実感であった。

テレビに誘われて美術品を見に行く連中など、所詮好奇心の域を出るものではない。ご法義の繁盛とは関わりないことだ、という考えもできるだろう。しかし、それにしても、この情熱は無視できない。これらの人々がお寺に足を向けないのは、寺院が既に一般社会に対して、魅力を感じさせるものを提供できなくなっているからではないだろうか。大東京のど真ん中で繰り広げられた、少なくとも仏教に関わりある催しの盛況ぶりと、寺院の法座の衰退ぶりとが極めて対照的に私の頭を悩ませたのである。

 500回忌の法要の中で、蓮如、蓮如に明け暮れた一年が過ぎた。10期100日間に及ぶという空前の大行事を終えて、果たして我が教団に「変革」はもたらされたのだろうか。いや、私たちは変革へのスタートラインに立ち得たといえるのだろうか。

 一日3500人、百日間で約40万人の参詣があったと聞けば、一応は大成功裡に円成したかに見える。懇志も思いがけず順調に集まった。おかげで当初予算に倍する事業が展開できた。聞法会館、参拝会館も立派に完成した。

 それらはとりあえず、慶ばしい事ではあろう。しかし、公称門徒数千万という日本一の大教団からすれば、お参りできた人はほんの一握りに過ぎない。しかも、「一宗の繁昌と申すは、人の多くあつまり、威のおほきなることにてはなく候ふ」という蓮如上人ご自身の言葉すら裏切ることになってはいないだろうか。

私は4月と11月の二度にわたって法要に参拝するご縁をいただいたが、法要自体の厳粛さが醸し出した感激はそれなりに評価するとしても、法要前に設定された特命布教使による短時間の法話は、まことに惨澹たるものであった。

 各教区から選ばれたベテランが、晴れの舞台に指名を受けたはずなのに、型通りの色褪せた用語を繰り返すのみで、目から鱗の落ちる思いの「変革」を呼び覚ます情熱はついに感じられなかった。もちろん、他人の批評をすることは易しい。お前にどんな法話ができているのか、と言われれば恥じ入るほかはない。しかし、誰がどうかという話ではなく、私たちはいつのまにか蓮如上人の上にあぐらをかいて、その遺産を食いつぶすようなことを続けてきたのではないかという話なのである。

 教団全体が総じて伝道力を喪失し、確実に遺制教団化しつつある。そうした危機感を最も痛切に抱いておられるのは、ご門主様ではないか。法要後のご親教を拝聴しながら、そのように思われてならなかった。

各家庭に仏壇を、各寺院から門徒に便りを、という具体的な提言は、ご親教としては異例のことと評判になったようだが、このようなことをご門主に言ってもらわねばならないということは、それだけ門末の現状が具体性を失って建前倒れになっているということなのだ。心有るご住職たちの何人かが、身の縮む思いでそれを聞いたと告白されたからといって手放しでは喜べない。浄土真宗は崩壊寸前の危機の中にある。その危機感が全体の問題となり得ないところに、いっそう深い危機があるのだろう。

 500回遠忌は無事終了した。さあ、これから親鸞聖人の750回御遠忌に向かって、平成大修理に取り組むのだ……。

 こうして、またぞろ空前絶後の大法要が、今度は何百日開かれるのだろうか。そして、記念事業ではどんな建物が新設されるのだろうか。だが、いずれにしても私たち一人一人が、凄まじい勢いで世俗化する現代の只中にあって、その世俗性を批判する原理として念仏の道を歩み、現代に対応するものとして仏法を提供できなければ、真宗の危機は容易に乗り越えられるものでないことだけは確かであろう。(託麻組・香覚寺 住職)
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