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それぞれの「真宗教団再興」と「真宗再興」  藤岡崇信 [1998年10月1日(53号)]

親鸞・蓮如の教学の相違が問題になると、必ず「両者は時代が違う、その時代背景を考慮しなければならない」というその一言で、全て解決したかの如くそれ以上の論議が憚られるという状況に、私は「明日の真宗」を危惧せずにはおれません。

 何故なら、その論理は「真宗」を鮮明にするに困難な時代には、常に「信心は内心にたくわえ、世間通途に生きる」ことが幅を利かせ、信心理解の異なりも「時代背景の違い」ということで全てを容認することになってしまうからです。

 決して蓮如上人の時代のみが、「特殊な時代」であったというのではなく、教団の大勢はいつも上記の論理をもって時代への追随、「親鸞」からの逸脱の道を歩いてきているのです。

 このことからして真の真宗再興・教団再興は、単に蓮如上人を持ち上げるという延長線上にはありえないのではないでしょうか。


 御用学者は別として、多くの人が指摘をしているように、親鸞聖人の没後、覚如上人、存覚上人は、神祇と真宗信心との融合を意図し、その延長線上で、本地垂迹思想、真俗二諦の原型ともいうべき教学を展開し、この教学が蓮如上人に多大の影響を与えました。

 親鸞聖人にはみられなかったこの教学は、本願寺教団創立と発展を目指した覚如・存覚両師が、当時の神祇信仰や儒教倫理との摩擦を回避するための、時代への順応(妥協)の産物であります。

 蓮如上人以後、歴代門主の『消息』を見ると、まず十三代良如上人は、王法遵守、四恩奉戴、諸神・諸仏を軽んぜず、仁義に従い、世間通途に生きることを坊主・門徒の「敬慎すべき法」と規定し、違背者は永久に門徒除名としています。

 この蓮如上人の「掟」の踏襲が、その後の真宗の基本路線を確定したといわれますが、宗門改役の設置で幕藩権力による宗教統制が完了し、全ての宗教が、人民支配の役割を担わされた中、わが教団もまた幕藩体制補完の教団として、生き残りをはかる方策であった訳です。

 二十代広如上人は「王法を本とし仁義を先とし、神明をうやまひ(中略)現生には皇国の忠良となり、罔極の朝恩に酬ひ、来世には西方の往生をとげ」る者こそ真の念仏者であると示し、次代の明如上人は、「敬神愛国」「富国強兵」を説くに至っています。

 幕末から維新という大変革期には、真俗二諦を説いて体制への埋没を正当化し、廃仏毀釈に始まる神道国教化政策への対応は、「敬神」という真宗教義歪曲の路線が物語るように、いつの時代も、真宗にとって望むべくもない「時代」が到来し、その都度「時代順応の教学」を編んできております。

 門主のこの厳しい教示を、全門徒が全面的に受け入れていたら、すでに「真宗」は変質し消滅していたに違いない。なのに今日辛うじて存続しているのは何故でしょうか。

 この視点から、僧侶の姿勢を伺う時、石見の仰誓とその地方の僧侶は、大勢は権力随順という状況の中、異色の存在であります。

 それは石見国浜田周辺に広く、真宗が神明を祭らない、祈祷の札守を用いない軽蔑すべき邪宗であるという内容の小冊子が流布し、門徒は疑悔を抱いているという状況下、仰誓は、明和二年『僻難対弁』を著して、決然とその書を批判し、神祇不拝の真宗の立場を獅子吼しているのです。それは決して真宗を鮮明にするに易しい土地柄ではなかったはずです。何故なら出雲神社の膝元で、当然そこは神祇信仰の強烈な地であることが想像されますし、事実、後に在地支配者層、諸宗寺院との間の「浜田宗論」の遠因になったといわれています。

 寛睦の著『石見公事寛睦記』によると、明和四年から二年間にわたるこの宗論は、諸宗寺院が藩に対し真宗を切支丹同様の扱いに、との要求が発端であるが、その根底は真宗僧俗の神祇不拝をめぐる問題であると指摘しています。

 同時代の広島の慧雲も同様です。「神棚下ろしの報専坊」とあだ名される程の存在で、真宗の専修性を基底にした教化でつとに有名ですが、晩年、慧雲の教化に反感を持った修験道僧の放火により自坊は焼失したというのです。


 いつの時代もどの地方にも真宗にとって「ユートピア」は決して存在してはいなかったのです。その厳しい時代と時代背景のただ中に身をおきながら「蓮如の真宗」ではなく、「親鸞の真宗」を教化しつづけた人の歩みがあったのです。私はその細い一筋の糸のような営みが、「真宗」を存続せしめてきたと思えてなりません。 〔託麻組真行寺住職・藤岡崇信〕

参考文献・福島寛隆編『神社問題と真宗』


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