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脱原発映画上映会によせて  古井義章(熊本組・法泉寺住職) [2012年4月1日(第107号)]

去る二月十八日、熊本市九品寺・法泉寺において、「原発・沖縄 二大国策を問う!」と題して、記録映画上映会が開催された。

当日上映されたのは「脱原発・いのちの闘争」と沖縄の米軍基地問題を主題とした、「恨ハンを解いて、浄土を生きる」の二本であった。両作の監督である西山正啓氏(水俣で長年にわたり記録映画を撮り続けてこられた、故・土本典昭監督のもとで、助監督をつとめてこられた方)によれば、水俣・沖縄・原発の問題は、国策によって特定の地域が過大な差別的扱いを受けるという点等において、問題の根を同じくしているとのことである。

「脱原発・いのちの闘争」において描かれるのは、玄海と川内という二つの原発を有する九州における、市民による九電や自治体に対する抗議行動の記録である。

福島の大事故以後、全国で住民による、「脱原発」への政策転換を求める運動が高まりつつある。九州においても各地で様々な取り組みがなされているが、福岡市では昨年四月二十日から九電本社前にテント村をかまえての座り込みが始まり、今現在も続いている。九電に「質問状」を提出し、それに対する公開の場での回答と、それを踏まえての討議の場を求めてきた市民グループに、座り込み二十日後に九電側がようやく応対することとなった。その当日の「交渉」と「討議」の模様が、本作前半のハイライトである。実際に「討議」が行われるまでの押し問答、小競り合い、九電本社ロビーから小さな会議室へと至る長い行列・・やっと始まった「討議」でのスレ違うままの議論、また本作撮影作業に対する九電社員の妨害の様子・・カメラは延々といわゆる長回しの手法で撮し続ける。そこに表れるのは、市民の怒り・焦燥感であり、また対する九電の不誠実な態度である。

後半は、七月十一日の佐賀県庁での古川知事(当時、玄海原発の早期再稼働に前向きであった)に対する市民の抗議行動の記録である。意見書を提出しようとする市民グループと県職員との、またしても果てしない押し問答、会見場をめぐる小競り合い・・結局は県庁ロビーで行われた県の原発問題担当者への意見書の伝達と、県の対応に対する抗議の模様が映し出される。そして何ら解決への展望もないまま「映画」は終わる・・いや最後に「つづく」の文字とともに、前途の多難なこと、しかし屈することなく市民の行動は続いていくことを最後に示す・・。

このような「記録映画」を製作し上映することの意義とはなんであるのか?西山監督の師である土本氏の長年にわたる水俣での取り組みを振り返ることで示唆を得ることができる。一つには、①残しうる限りの記録を残すこと。水俣での数多くの証言、病理学上の資料が映像化されていることは、後世にとっても第一級の資料である。また、②その映像記録たる映画を広く公開することで、その問題に直接関わる地域、それ以外の地域それぞれの人々の課題意識を高めること。水俣や天草での巡回上映会は地域住民の意識の転換に決定的な影響を与えた。また海外での上映では、とりわけカナダの先住民の水銀被害に対するカナダ政府の政策転換を引き出す等、大きな反響を得た。③映画を撮る行為そのことが喚起すること。撮ること、撮られることによって、引き起こされる反発、共感。土本監督が地域の人々に寄り添って丹念に記録されることによって、様々な思いや言葉が紡ぎだされ、そこから水俣や天草に新たな共生の輪が生み出されつつある。今回併映された沖縄の基地問題を主題とした西山監督の「恨ハンを解いて、浄土を生きる」においては、まさにこの撮る行為によって初めて喚起されたに違いないような出会い、思いのぶつかり合い、思いがけず紡ぎ出される言葉、まさにそれが発せられる瞬間が捉えられている。勿論、基地問題はまだ解決にはほど遠い段階ではあるが、憎しみを越えた共生への希望がそこにあらわれているように思える。しかし「脱原発」の方ではまだ、思いのぶつかり合いはあっても、希望は見えてこない。この問題は始まったばかりだということを思い知らされることである。

先日三月十一日、熊本市白川公園で行われた「脱原発」を訴える市民集会で、今回の上映会に参加した幾人もの人たちとまた出会うことができた。映画に登場していた福岡の市民グループの人たちとも「再会」することができた。今すぐ取りかかっても完全廃炉までは数十年を要する。道のりは長く厳しいことは言うまでもない。しかし、人と人、人と環境とのつながりを呼び起こし、共生・平等の意識を共有していくことが、困難に立ち向かうために必須であり、またそのための「想像力」を高める手段としての記録映画の役割は大きいと言わなければならない。


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