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現代の問題にどう関わるのか?   外海 卓也 [2014年1月1日号(第114号)]

最近、お東の安田理深師が1980年に出された本を再読していて、差別問題の関わり方を考えさせられた。

安田師は「現代インド仏教を再興したアンベードカルが仏教を選んだのは、アウトカーストの被差別民が解放されるには、普遍的・根本的に差別を解決する思想でなければならないと考えたからだ。同じように日本の部落解放も黒人差別やカースト制度を解決するものであるべきだ。そうでないと行政的な措置に終わる」ということを語っている。

行政的な措置とは同和対策事業や同和教育である。それらは普遍的・根本的なものでなく、「差別を薄める」ものである。差別を薄めれば見えなくなるが、差別の構造は残る。

べ平連を組織した小田実は1960年頃のアメリカを旅したことを書いている。アメリカ南部に行くと、レストランやトイレは「ホワイト」と「カラード」に分けられていた。カラードとは黒人のことで、以前はニグロと言ったが、上品にカラードと呼ぶそうだ。

ニグロをカラードと言い換えて差別を薄めても、差別の構造は変わらない。現在はアフリカ系アメリカ人というが、日系やアジア系まで薄められたにすぎない。

ある住職の話を聞いて、私も同じ間違いをしていたことに気づかされた。

その住職は友達の結婚式の司会を頼まれた。友達の親は耳が悪く、手話通訳を頼んでいた。その手話通訳の人を紹介するのに「新郎のご両親は耳が不自由なので」と書いた台本を見た友達が「不自由と思ってないから耳が悪いでいいよ」と言われ困惑したという。

「耳が悪い(存在)」を「耳が不自由(機能)」と言い換えることは、差別を薄めるが根本的な差別は変わらない。

すべての差別の根底にあるものを明らかにして、差別を薄めることではなく、普遍的・根本的に解決していく必要がある。

10年ほど前、お東の新聞だったと思うが、ある解放同盟の女性の記事が載っていた。その女性は「母は読み書きができなかった。私は劣っているとバカにしていた。あるときそれは差別していることだと気づいた。その気づきでまわりを見たとき、運動に取り組む男たちは女性を差別していた。私も障害者差別や民族差別をかかえていた」と語っていた。

このような「差別心の自覚」ということは基幹運動のなかからも出てくるべきだった。自らの差別心に気づく必要性は運動や研修のなかで語られていたが、言葉として知っていただけに終わっていたのではないか。雑誌「宝島」のなかで明らかになったことだが、基幹運動を推進する者の女性差別が問われていた。差別をしたことよりも自らの差別心を見つめられなかったことがもっと大きな問題だろう。私もある女性と話していて「坊守として…」と言ったとき、「私は住職です」と強く言われたことがあった。私は「知らなかった、すみません」ですませて、その底にある差別心が見えなかった。
凡夫の自覚において、差別心は差別者だけでなく、被差別者も傍観者も解放に取り組む者も持っている。自らの差別心の自覚から御同朋の歩みは始まる。

10数年前のこだま公開講座で、阿満利麿師は「昔、うちかてアホや、あんたかてアホやというお笑いがあったが、このような凡夫の自覚が念仏者の共同体、御同朋を開く」と話された。
凡夫の自覚は、個人的なものにとどまらず、相互理解、共感へと展開するものである。曽我量深師は「信に死して願に生きよ」と言われた。そのような凡夫の自覚において御同朋の共同体は開かれてくる。「御同朋の社会をめざして」というようにどこかにあるものではない。一人一人の自覚を離れてはない。

また凡夫であるから、一度自覚したら永遠にあるというものではなく、自覚は見失われやすい。それ故に現実の問題に関わる運動が求められ、そのなかで凡夫の自覚と相互理解が問われてくる。
基幹運動から実践運動になり、見えてきたのは教学の欠如である。基幹運動では「御同朋の教学」がいわれたが生み出されなかった。実践運動では、社会に貢献する活動が中心となり、教学は二の次になった。

仏法そのものは時代社会を超えているが、現代の問題と交わらないと生きたものとならない。そこに教学が必要になる。教学の営みとは、現実の問題に対症療法的に関わるのでなく、問題の根底を明らかにし、私自身と社会を同時に見つめ、問うていくことである。そのような教学の営みが教団の運動の中心にあるべきで、それによって浄土真宗の教えも現代に生きてくる。
(緑陽組・浄喜寺住職)
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