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対話を始める、そして、つながり合う<講演会「蓮池透×森達也」から学んだこと>  藤岡崇史 [2009年10月1日(第97号)]

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 「非戦・平和を願う真宗者の会・熊本」は、結成五周年を記念して、北朝鮮による拉致被害者家族会前事務局長の蓮池透さんとドキュメンタリー作家で思想家の森達也さんを講師に招いて講演会と対談を行った。

 七月上旬からこの両者の対談が『マガジン九条』に連載され、そこで何度も告知が行われたことや、講演会直前にヤフーのトップページに地域情報として紹介されたこともあり、東京をはじめ遠近各地から多くの人々が参集した。

 講演の内容は非戦の会から事前に依頼していた、
①拉致問題解決が滞ってしまっている原因と、その打開策について
②拉致問題が明らかになったことによって喚起された日本の屈折したナショナリズムについて
③「人権・平和」を声高に叫びながら拉致問題について口を閉ざしてきた、いわゆる「リベラル派」が内包する問題について
という三点と、森さんの専門分野であるメディアの功罪が中心となった。

 また、さらに宇治和貴さん(託麻組・廣福寺副住職)が加わった対談コーナーでは、憲法九条の問題に踏み込んだ話も聞くことができた。

 ちなみに会から依頼した上記の三点については、蓮池さん自身の課題でもあったようで、八月末に出版された『拉致対論』で、ほぼ同内容のテーマでの対談が収録されている(対談相手は現代企画室編集長太田昌国さん)。


※  ※  ※
 講演会では、蓮池さんが「首脳同士が正式に取り交わした平壌宣言を蔑ろにし、制裁一辺倒で対応しようとしている日本の態度に問題がある」とした上で、「戦前・戦中の植民地支配に対する賠償を行い(平壌宣言は冒頭に「日朝間の不幸な過去を清算し」と謳っている)、北朝鮮と対等なテーブルで交渉を進めることに解決の道がある」と訴え、森さんは独裁政治がおこなわれていたチャウシェスク時代のルーマニア崩壊を例に出し「国交正常化を先に行い、情報と人材を流入させることによって状況を変化させた上で交渉を行ってみては」と語った。
 現在の日本政府の方針、また家族会・救う会が要請している方法論とは異なり、二人は揃って拉致問題解決への方法を「対話重視」の政策だと主張した。


※  ※  ※
 特に印象に残ったのは、「弱者であるべき被害者家族が強者になってしまった」と蓮池さんが自嘲気味に語られた言葉である。

 自らを問い直すことなく他を問い詰める行為は、何物にもかえがたい充実感と一体感を生み出すのであろう。だからこそ暴走しやすいし、他者を傷つけることに躊躇がない。 「北朝鮮=加害者=悪」・「日本=被害者=正義」という単純な二元化構造ですすめられている運動は、その危険性に強く配慮せねばならない構造となっているのではなかろうか。しかし、メディアの報道で知る限り、また今回の蓮池さんの講演を聞く限り、そういう配慮はまったく見当たらない。

 拉致問題に限って言うならば、北朝鮮が加害者側であることは動かしがたい事実である。しかし、被害者はあくまでも拉致された人であり(蓮池透さんにしても被害者ではなく、被害者家族である)、全くの他人(救う会のメンバーやメディアに感化された市民)が短絡的に絶対正義を振りかざし、声高に絶対悪として北朝鮮を糾弾していく、このような我が国の国民世論が、全世界の人道支援を喚起し、北朝鮮を動かしうるのであろうか。被害者の本当の痛みを安易に理解したような態度は、かえって失礼にあたりはしないのか。だからといって、被害者の声に向かい合うことをしなかった、これまでの私たちの態度を正当化することはできないが…。

 近年になり、北朝鮮の核開発問題と拉致問題を包括的に考える風潮がある。しかし、戦前・戦中における植民地支配の賠償問題を抜きに考えるのは、あまりにも独善的ではないだろうか。(ただし、それを理由に被害者に「痛みに耐えよ」と言うつもりはない)

 拉致問題に関して今までまったく動こうとしなかった私たちに、こんなことを言う資格はないのかもしれない。しかし、「自らを問い直すことなく、他を問い詰める行為から得る充実感と一体感」から、本当の打開策が生まれてくるかと、強く考えさせられた。

 またそれは、いわゆる「リベラル派」をはじめとした私たちすべてが内包する重要な問題でもある。それを忘れるならば、私たちの立場も単なる独善的な見解でしかないのだということも、改めて痛感した。 (託麻組・真行寺衆徒)


拉致対論

拉致対論

  • 作者: 蓮池 透
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2009/08/29
  • メディア: 単行本



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