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声を大にしては言えないこと 甲斐 晃裕 [2011年7月1日(第104号)]

1996年の熊日紙、こころと宗教欄に「原発・エネルギー問題と少欲知足の教え」というテーマでコラムを書きました。


『 (略)エネルギー問題は、日本だけのことではありません。驚異的な経済成長を続ける中国、インドを中心としたアジア三十五億の人びとが、急速にエネルギー消費を増やしています。

貧困からの脱却、その流れは止められるものではありません。現在の欧米、日本の消費水準に並ぼうとする時、一人当たりのエネルギー消費量は二百倍になるといいます。急激な経済成長は、人口増加も伴うでしょう。このまま右肩上がりの消費拡大型の方向を続けるなら、原発はなくなるどころか増え続けます。

アジア各地に何百と原発ができる。事故は起こらないと考える方が不自然です。

(中略)すでに、各地で原発は稼動しています。いったん容認する構図ができてしまえば、もうなくせない。万一、事故で犠牲者が出ても「二度とこのような事態をおこさないよう、安全対策に万全を期します」で終わるでしょう。過去の原発事故でもそうでした。この先どうなるのか、想像をたくましくすると、暗たんとした気持ちになります(略)』


掲載の数日後、コラムを読まれたSさんという医師から丁寧な手紙をもらい、その日の夜にお会いしました。「あなたの意見にまったく同感だが、ただ一点、原発はもうなくせないと諦めるのはよくない、信念を持って原発廃絶を訴え続けることが、危険性を知った者の責任です。ぜひ一緒に頑張りましょう」と説諭されました。コラムの主題は少欲知足の教えだったのですが…。   
   
四月末、そのSさんから連絡がありました。原発廃絶を関係各署に請願するから連携して欲しいということでした、残念ながらこちら(宗派関係)には脱原発のネットワークはありません。個人としてでもよろしいかと訊くと、個人の集まりをネットワークというのだ、といつも変らず明快な応え。久しぶりに会うことになり、震災や原発事故について話しました。

福島第一と浜岡は停止した方がよいと多くの専門家がその危険性について、くり返し言及していたようです。特に設計自体が旧く、津波に弱い福島第一の危険性は海外からも指摘されていたのです。

以前に京大の原子力研究所の学者が原発安全神話に疑問をなげかける報道番組をビデオで見ました。電力会社の横ヤリで深夜枠ローカルでしか放送できなかったそうです。学者は現在の原子力行政に懐疑的で、今は京大に席がありません。反対する者は厳しい逆風にさらされる、独善的なムラの構図。
「完全に人災です。誰がどんな権限で学術的見地からの提言までもスルーしてきたのか、不作為と言うには事が重大すぎる」Sさんはこれまで自分たちの運動を無視しつづけてきた勢力を追及せずにはおれない様子でした。巨費が絡む原発を取り巻く政官業、学界はみな悪者ですね…。

もしそこに危険性の指摘を謙虚に受けとめるヒーローがいたとしたら、会社を説得して大津波に備えた適切な対策をとり、福島第一が間一髪で助かっていたとしたら…。

時速三百㌔で走行していた東北新幹線は感知システムが働いて見事に停止し、世界を驚かせました。管理・制御システムに関して技術も人も日本の信用は高く、まさか、日本の原発でメルトダウンが起こるとは、専門家も思っていなかったのです。

「あの日本人が管理していてダメだったのだから、ゴミ処理もできないイタリア人じゃ到底むり」と、スイス、ドイツに続いてイタリアも脱原発に舵をきりました。電力の八割が原発、半国営電力会社が周辺国に電気を輸出している原発大国のフランスさえも〝日本の事故〟のショックは大きく「時間をかけてでも脱原発」の世論が多数をしめています。

千年に一度の大地震と原発。あってはならない重大事故は起こってしまいました。私たちは将来にわたって大変な犠牲を払うことになるでしょう。日本の原発安全神話は崩壊してしまいました。
しかし、世界は脱原発の方向に大きく向きを変えようとしています。Sさんに説諭されても、無理だろう、もう原発はなくせないだろうと、ずっと思っていました。

「日本は戦争に敗けてよかったのだ」と言えるようになったのはいつ頃からなのでしょうか。
日本の福島原発事故が原発安全神話を覆し、世界的な脱原発への転換点になった。将来、人類のエネルギー史にそう刻まれるようにすること、それが、すべてを見過ごしてきた私たちの責任なのだと思います。(託麻組・専念寺住職)


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