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お寺ステイ熊本―特に平商業高校ソフトテニス部の受け入れについて 大松龍昭 [2013年10月1日号(第113号)]

「夏休みお寺ステイくまもと」とは、東日本大震災被災地の子どもたちの心身の保養のためにと、教区内寺院にホームステイしてもらうという内容。二回目の今年は、「教区重点プロジェクト」の中心事業として、また七教区が協力して行う全国プロジェクトの一つとして実施された。そしてこの度の「お寺ステイ」は、本来この形一つで行う予定だった。

しかし、福島県立平商業高校女子ソフトテニス部の受け入れ案が浮上。いわき市内にある同部は県内屈指の実力校ながら、原発の影響で練習環境に問題を抱えていた。実は昨年、北海道教区有志が同部の夏季合宿を支援したという経緯があり、今年のソフトテニスのインターハイが大分で開催されるという事もあって、「お寺ステイ熊本」と繋がったというわけである。実行委員会は、お寺でのホームステイを夏季合宿日程に組み込んでこれを受け入れ、この二つのプランを並行させて今年の「お寺ステイ」は行われたのである。

ただ、このソフトテニス部の受け入れについては、「趣旨と反するのではないか」等の意見が出され、未だ充分な理解を得ていない面があると認識している。そこで、滞在中に託麻組同朋講座(公開講座)として、テニス部監督・水野谷先生が講演をされた、その内容の要点を参照しつつ、同部との出会いの意味をしばらく考えてみたい。

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一、「分からない」ということを分かっておく
彼女たちが被災者であるという事は、ある程度分かっていたからこそ「単なる運動部の合宿」としてではなく、被災者支援として受け入れたわけだが、今回参加した生徒の三分の一は津波によって自分の家を失っていて、その生徒達は仮設住宅あるいは借り上げ住宅に住んでいるという。また、原発から五キロ地点に住んでいた子もいて、その子の場合は恐らくもう戻れまい、と。しかし、印象としては生徒達は「想像よりはとても明るい」だろうと。なぜなら「後ろ向きになっても仕方がない」し、「前に進むしか方法はない」と考えているから。でも本当は見えない色んな傷を抱えているはずで、「そこに立ち止まって今でも怯えている子がいるのも現実」だと。なるほど、私たちが出遇った部員たちはみな明るくてハツラツとしたスポーツマンだった。その印象と言動からは彼女たちの痛みや不安は、確かに見えないし分からない。そもそも短期間の関わり程度で、それが容易に私に「わかるはずがない」のだ。それはもう一つのプランで参加した子ども達や保護者にも言えるはずで、「お寺ステイ」に関わる上でこれは重要な事だと思われた。

二、「原発」の影響に向き合う苦悩
また講演では、放射線量の安全基準について、水野谷先生が国や県と種々に戦ってこられた様子が語られている。「教育の上で何を大事とすべきか―それは子ども達の命」と考える先生は、安全ではない場所で教育をしようとする無責任な現場と厳しく対峙してこられたのである。しかし、その安全基準については年間と毎時、あるいはミリ、マイクロ等の表記・単位の違いがあり理解しづらい。そもそもその安全基準そのものが混乱している、それも現実である。だから、水野谷先生の考え方は福島においても決して「当たり前」ではない。そこに水野谷先生の苦悩がある。しかし、先生は一方で言う。「福島は安全だという人の気持ちも分かる」と。福島=放射能というイメージは、すでに様々な偏見と差別を生んでいる。先生もその事は我が子が受けたいじめを通して、身に染みて分かっている。また風評被害がなくならなければ、生活が成り立たない人がいる。原発で働いてきた人がいる。「福島は安全だ」と信じようとする人たち、そこにもまた深い苦悩があるのだ。

三、まだ終わってはいない
それ故に、「福島では大人達もすごく疲れている」と。つまり「考えるのはイヤだから流されて生きていこう」と考える人も増えているのだと。だから自分自身も言い続けていかねばならないと思っているが、その「まだ終わっていない」という事を、ぜひ「外からも言って頂きたい」と。「そういう思いをもって福島を見てくれている人がいる事が、福島の人たちを助けてくれる事になるのではないか」と、講演の最後に語られた。

四、おわりに
「講師」という形でなければ、先生もこのような話はされなかった事だろう。主催の託麻組に感謝せねばならない。平商業高校ソフトテニス部との出会いは、このようにして「お寺ステイ」だけに留まらない学びを得る機会となったのであり、そこに私は大きな意味を感じている。先生から頂いたメッセージも含めて、今後の課題としていきたいと思う。


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