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「浄土」は「また出会える世界」??  渡邊了生(東京仏教学院講師) [2015年1月1日号(第118号)]

「また出会える世界」という言葉を、よく耳にします。それこそが親鸞聖人の「浄土」観の第一義であるかのように。確かに「愛別離苦」(愛し合う者が離ればなれにならなければならない苦悩)の悲しみを抱える人達にとって「また出会える世界」は、その苦しみを癒すための未来の理想郷ともいえましょう。けれども親鸞聖人は、そのような私達の現実の苦悩や欲求を都合よく満足させていく世界こそが「浄土」であると説示されたのでしょうか?

ある事故で婚約者を亡くされた方が、あまりの現実の苦悩・悲しみにさいなまれ、その後「あなたに会いたい、会うには私が行くしかない」という遺書を残し「また出会える世界」に旅立たれました。その方の辛かったであろう「愛別離苦」の現実、そして、その解決を来世での再会に求めようとした遺書の文言を目の当たりにした時、私は「また出会える世界」こそが親鸞聖人の浄土観であると主張する声に「戸惑い」と「虚しさ」を感じました。はたして「また出会える世界」を来世に願求すること、それのみが念仏者の「真実の証」という目的であり御信心の喜び・法味なのでしょうか?

もし仮に来世の「出会える世界」が実在するならば、私達は、どんな姿で復活し愛する人々と再会するのでしょう?若き日の姿?臨終時の姿?白骨の姿?霊魂での再会?同様に「怨憎会苦」(怨み憎しみあう者・事と会わなければならない苦しみ)の対象となる嫌な人々とも否応なく再会ですか!?ならば「嫁姑」の確執問題も来世で、再び延長戦ですか?迷いの「輪廻の生まれ変わり」との違いは?どうやら私には様々な疑問と矛盾の〝?〟が浮かんできます。もし「出会える世界」が「浄土」であると主張されるならば、そこには仏教的な理の通る説明責任があるはずでしょう。曖昧なままに都合良く自己完結することが「信心の智慧」ではないはずでしょう。

浄土教の祖・曇鸞大師(真宗・第三祖)は、すでに「為楽願生」(世俗の欲望としての「楽」を来世の浄土に求める為の願生)を強く否定されています。そして親鸞聖人も「阿弥陀如来・浄土」について

真仮(化)を知らざるによりて如来広大の恩徳を迷失す。これによりて、いま真仏・真土を顕す。これすなはち真宗の正意なり。(『教行信証』真仏土巻・結び)

と語られています。すなわち、「真仏土」としての「無量光明土・不可思議光如来」(=他力念仏の道を私達に明かす「如来[真如より来生する]・浄土[娑婆の土での欲望を悟りの智慧へと清浄化する]」の真実なるはたらき用)と、それを知らしめるための「方便(手だて)」としての「方便化身土」(来世のビジュアル的な浄土観=「また出会える世界」)の説示とを厳しく分判されます。つまり「方便化身土」は、あくまでも「真仏土」のはたらき用をあらわすための「方便」(権化方便・報中の化)であると示されます。

これらのことについて、例えば、大谷光真・前御門主様は、
たしかに「浄土で会いましょう」とか、「今この世で別れても、またあの世で会いましょう」と言うときに、この世に生きている今の私たちが目にしたり手で感じるような形や色がそのまま死後にもあってそこで再会できる、という考え方はできないと思います。・お浄土に往くということは、単純に美しく楽しい世界に往くということではなくて、仏になる、成仏する、往生成仏ということを親鸞聖人は重要視されている。つまり、仏教の基本だと思いますが、さとりを開くということをおっしゃっているんです。(『今、ここに生きる仏教』)

とお示し下さっています。そして、村上速水和上も
彼のよろこびは摂取不捨の利益にあずかったという、獲信の一念にあったことは疑うべくもない。(中略)だから、彼のすくいはそこですでに完結しているといってよい。(中略)もしそのほかに、さらに望むべき「未来の浄土」があったとするならば、現実は依然として空しいものがあったとせざるを得ないし、真に充実していたとは言えないであろう。・第十八願の信楽は、自力欲生心ー未来の浄土を希求する心、の否定の上に成り立っている。(「親鸞のよろこび」)

と述べられておられます。私達は、「誘引・悲引」としての「方便化身土」の表現形式を通しながら、さらに、その先に「阿弥陀(無量)」として「如来(浄土)」する「真宗の正意」としての「真仏土」のはたらき用を迷失することなく、今ここに信知すべきだと思います。(東京教区福源寺 副住職)


親鸞の弥陀身土論―阿弥陀如来・浄土とは (安居講義録シリーズ 安居「課外」講義録 平成23年)

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  • 作者: 渡邊了生
  • 出版社/メーカー: 真宗興正派
  • 発売日: 2013/07
  • メディア: 単行本



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